プロペラブレードの形状設計
4年前のメンバーが既に開発した、後流中の渦による誘起速度を求めてそれを利用してブレード上の循環分布を最適化する計算プログラムを、用いプロペラの諸元値を決定した。人力機のプロペラは数十万という低レイノルズ数領域で使用するものであることを念頭に置いて設計を行った。レイノルズ数が低下すると流体の粘性力が支配的となってくるため、ブレード面上の境界層が厚みを増し、圧力勾配による力が境界層を維持している流体の剪断力に打ち勝ち、淀んだ面上の流体が逆流を起こす。この状態を一般に「剥離」と呼んでいるわけであるが、これは一般に翼面上のレイノルズ数が1.0~2.0×10^5を下回るあたりから発生するとされている。そこで、今回の設計では翼面上のレイノルズ数を最低でも1.0×10^5のレベルを確保することを前提とした。
また、一昨年から、ブレード取付角の大幅な見直しを行った。実際の飛行条件において、プロペラに流入する気流は常に一定というわけではなく、次に挙げるような変動要因が考えられる。
A:当日のコンディションによって変化する要因
1:当日の気温、湿度などの変化による空気密度の変動
2:風向、風速の変化による対地速度、姿勢に及ぼす影響
B:飛行中の変動要因
1:足で漕ぐことによる回転速度及び重心位置のムラ
2:飛行高度、速度の変動
3:飛行中の風速、風向の変化
4:操縦及び風による、飛行姿勢(ピッチ、ヨー)の変化
これらの変動要因によって、プロベラに流入する気流角度は常に変動するが、設計迎角が大きいと少しの変動でもCl値が翼の失速限界である1.2~1.3を越えてしまい、ブレードの失速を招く。これを勘案した上で、飛行中に翼断面が失速しないような迎角を設計迎角とする。具体的には翼端付近において如何なる変動の下でもCl = 1.0を越えないようなClを設定する。
機体重量や構造から仮決定した機体巡航速度7.5[m/s] をもとにして、前述のプログラムを用いて回転数、ブレード半径、設計迎角の各パラメータを最適化した。一昨年度のプロペラとの主な相違点は
- 翼弦長を広くとり、翼面上のレイノルズ数を確保すること。
- ブレード取付角を8°から1°へ見直し、失速特性を高めること。
- 回転数を2(rps)から2.33(rps)に高め、コード長が過大になり過ぎないようにしたこと。
の3点である。この結果、プロペラ効率は若干低下するものの、翼端部のレイノルズ数について大幅な改善が見られ、(0.7×10^5→ 1.4×10^5)その他の部位についても0.3Rよりも外側で2.0×10^5を越えるレイノルズ数を確保した。また、設計点でのCl値を0.4に抑え失速特性を高めた。この意味では、プロペラ効率は低下しているが、設計値を確実に実現するという意味において大幅な性能の改善が図られたといって良い設計である。
以上は前述のプログラムを用いてなされた設計試算である。
設計推力 = 30.0 [N]
入力パワ = 260 [W]
プロペラ回転数 = 2.33 [rps]
巡航速度 = 7.50 [m/s]
ブレード枚数 = 2枚
プロペラ半径 = 1.55 [m]
プロペラ内部半径 = 0.05 [m]
ブレード分割数 = 15個
空気密度 = 1.176 [kg/m3]
プロペラ迎角 = 1.0 [deg]
設計揚力係数 = 0.5
設計抗力係数 = 0.02
半径(m) | 翼弦長(m) | 取付角(deg) | 入射角(deg) | 循環(m2/s) | 局所効率 | Re数 |
0.10 | 0.1250 | 80.55 | 79.5 | 0.24 | 0.7349 | 65000 |
0.20 | 0.1916 | 70.74 | 69.7 | 0.39 | 0.8306 | 100000 |
0.30 | 0.2360 | 62.03 | 61.0 | 0.51 | 0.8580 | 140000 |
0.40 | 0.2615 | 54.57 | 53.6 | 0.62 | 0.8684 | 170000 |
0.50 | 0.2722 | 48.31 | 47.3 | 0.71 | 0.8721 | 190000 |
0.60 | 0.2722 | 43.09 | 42.1 | 0.79 | 0.8725 | 210000 |
0.70 | 0.2651 | 38.75 | 37.7 | 0.84 | 0.8710 | 220000 |
0.80 | 0.2532 | 35.12 | 34.1 | 0.88 | 0.8684 | 230000 |
0.90 | 0.2379 | 32.05 | 31.1 | 0.90 | 0.8651 | 240000 |
1.00 | 0.2201 | 29.46 | 28.5 | 0.90 | 0.8612 | 240000 |
1.10 | 0.2001 | 27.23 | 26.2 | 0.89 | 0.8571 | 230000 |
1.20 | 0.1778 | 25.31 | 24.3 | 0.85 | 0.8527 | 220000 |
1.30 | 0.1524 | 23.63 | 22.6 | 0.78 | 0.8482 | 200000 |
1.40 | 0.1214 | 22.16 | 21.2 | 0.66 | 0.8435 | 170000 |
1.50 | 0.0803 | 20.86 | 19.9 | 0.47 | 0.8388 | 120000 |
推力 | 29.697 (N) |
トルク | 17.7598 (N/m) |
プロペラ効率 | 0.8567 |
以下にプロペラブレードの翼弦長と取付角の分布をグラフに示す。
プロペラ翼弦長分布
翼素取付角分布
プロペラの製作法
今年度も昨年度の製作法を受け継ぎ、表面にバルサ材をはる方法でプロペラを作る。具体的には、
- 主桁にカーボンパイプを用い、重量の軽減をはかる。
- リブに朴を用い、重量の軽減をはかる。
- リブ表面にバルサ材をはり表面に翼型ジグを当てながらヤスリで仕上げる。
- バルサ表面にエポキシ系の樹脂を塗り剛性を持たせる。
- 表面をサーフェイサーで滑らかにする。
というように製作する。
主桁のカーボンパイプは、昨年度同様スキーのカーボンストック(φ11mmノンテーパ)を用いた。このままではプロペラ外周部分の薄いところからはみだしてしまい、またストック自体の長さも足りないため、外周部分には昨年同様φ6mmと、φ4mmのアルミ中空棒を用いた。
リブは各種素材を比較検討した結果、朴の木(ホオノキ)が加工性もよく、重量的にも有利という結論が得られ、これを利用した。翼型は DAE51を使用し、プロッタによってケント紙上に書かれた翼型を材木に張り付け、翼型を切り出す方式を取った。また、リブを軸に取り付ける際には、製作精度を考え、リブ取り付けようのジグを製作し、ここに完成したリブを乗せ、取り付け位置と取り付け角度の双方を一度に合わせることにした。
プロペラのセッティング
プロペラの迎角はプロペラの性能のカギを握る重要な部分であり、わずか1゜の狂いがCl値にして1割もの誤差を生む。昨年度、株式会社シキ(群馬県伊勢崎市)の全面的な協力の下、プロペラ取付金具の設計・製作し、プロペラ迎角の微調整が可能になった。微調整はネジを用いて行い、左右独立に調整できるようになっている。しかし、飛行中のピッチの変更は工作の難易度、及び重量の増加を考えて見送り、静止時のみのセッティングにした。その結果、離陸時にはパイロットの負担となるトルクが大きくなるが、この点は速やかな離陸を行い定常飛行状態に移行することで解決できるので問題はない。また、2枚のブレードの工作上の誤差によって生じる重量差に因る振動は、バランスウェイトを用いて抑えることにする。以下の図はプロペラの側面から見た形状と正面から見た形状をコンピュータを用いて描いたものである。
側面
正面